海外、特にスイスで就職を考えている学生の方、すでに日本で建築家として働いている社会人のあなたは、まず最初にスイスでの建築家としての働き方・給料が気になりますよね。
スイスの建築家の労働条件は、法に準じた労働環境・給料なので、基本的には性別や宗教に関係なく、すべて平等な待遇を受けることができます。
さらに、最低限の制度や規則を知るだけで、海外就活の際に不当に扱われる確率が激減します。
しかし、このシンプルな理由ゆえに、海外の就活市場では知識の乏しい移民に対する安価な報酬や劣悪な労働環境下で働かせるという事案が発生しているのです...。
本記事では、「スイスでの働き方や給料」を説明するのはもちろん、実績や経験の浅い学生・社会人の方でも、スイスでの雇用契約書を獲得するまでどう対策すればよいのかもご説明いたします。
目次
海外就活をする上で「最大の壁」は「タイミングが悪い」こと
スイスの細かい制度や給料の説明をする前に、まずは、スイスで建築家として就職できることがいかに難しいか、お話をしておきます。
前提として、求人情報を出している建築設計事務所にアプライすることは、誰だってできます。
履歴書を作り、志望動機書とポートフォリオを送付するだけです。運が良ければ、さらには次のWeb面接へと駒を進めることができます。
しかし、ほとんどの海外就活初心者が、いざ書類を送付し始めても、返信や連絡が全然来ないために、挫折しているのが現実。
なぜか?
理由は、現地の大学生・大学院生の就活の多忙期とタイミングが重なり、極めて優秀な人材と比較されてしまうからといった、悪い時期に応募したがゆえに、競合に負けてしまう確率が上がり失敗に陥るケースです。
そのため、経験0の海外就活初心者にとっては、どうしても運頼みのような厳しい現状になりがち。
成功確率を上げたいなら、アプライをする時期を考えると良い
スイスの建築家の働き方や給料を説明する記事で、こんなことを言うのは変かもしれませんが、ゼロから海外就活をする方は、まずは就活を行う時期を再考したほうがいいかもしれません。
理由は、海外の競合相手と同じ土俵で戦うには分が悪すぎるから。
ポートフォリオの質が同じであるとすれば、語学力や滞在許可証の審査など、さまざまな障壁を乗り越えなければいけない人材を採用するより、すでに現地で暮らしており、来月からでも出勤できるような人のほうが採用されやすいのは当然ですよね。
詳しくは、以下の記事をお読みいただきたいです。
僕が大学院を卒業してから、スイスの建築設計事務所で働き始めるまでの実体験をお話ししています。
詳細記事:【*現在執筆中】
カッコいいCGより、泥臭いリサーチのほうが好印象
スイスでの就活のためのポートフォリオを作る際によく問題提起されることとして、テイストやフォーマット、表現方法をEPFLやETHの学生が制作したものに似せるべきか否か、ってよく耳にしますよね。
ブランディングとは、「競合と差別化を図り、かつ付加価値をつけること」です。ブランディングを学ぶことで、ライバルよりも選ばれやすくなり、採用通知を獲得しやすくなるのです。
『ブランディング』を学ぶことで、現地の優秀な人材と同じ土俵で戦わずに済みますし、スイスの建築設計事務所に効率的に自分を売り込むことができます!
ただ、急に「ブランディング」と言われてもピンとこない方がほとんどだと思いますし、何からやっていいかわからないですよね。
そんな人のために、特にスイスで就職を考えている学生の方、すでに日本で建築家として働いてはいるが、今後転職をしようとしている社会人の方が「競合との差別化・明瞭化の考え方が誰でも身に付く」記事を執筆しました。
題して、『*現在執筆中』。
この記事をご用意したのは、海外特にスイスに就職したいけど、やり方がわからなくて諦めている人を少しでも減らすためです!
建築業界だけならず、ポートフォリオを必要とする業界すべてに通ずると思うので、少しでも気になったら覗いてみてください。
スイスでの建築家の給料事情【ヴォー州での一般規定】
ここからは、まず2023年から適用されるヴォー州内の建築家およびエンジニアの事務所を対象とした労働協約に準じながら解説していきますね。
2023年1月1日からの建築家の最低賃金
まず、スイス国内の建築設計事務所およびエンジニアの事務所は、各州ごとに締結されている労働協約に明記されている最低賃金以上の給料を、雇用主は被雇用者に支払わなくてはなりません。
現在僕が働いている事務所が属しているのがスイスのヴォー州ということもあり、引用する参考文献等々、当記事はヴォー州内の建築家にのみ適応される形となるので、ご注意ください。
こちらが、ヴォー州に属している建築家およびエンジニアの事務所を対象とした労働協約で、2023年1月1日から効力を保持することとなっています。
全19ページからなるこの労働協約の16ページ目に、建築家としての最低賃金が明記されています。
すべてフランス語で書かれていますが、日本語でご説明しますのでご安心ください!
左端上のExpérience en annéesは、プロフェッショナルな状況下での経験年数のことで、0-1年、1-2年、2-3年、3年以上(Plus de 3)、7年以上(Plus de 7)となります。
基本的な表の見方としては、まずは自身が保持する資格と、左端の列にある4つの異なる資格区分を見比べ、該当するものを探します。
それぞれ上から、
- Dessinateur CFC(スイスの連邦能力証明書を有している製図工、製図技術者)
- Technicien ES(スイスの専門教育機関を卒業した技術者)
- Architecte Bachelor professionnalisant(専門職学位を有する建築家)
- Architecte Master(大学院を卒業し、修士号を有す者)
となります。
例えば、すでに大学院を卒業し、修士号を有している場合、Architecte Masterの行が該当します。なおかつ、スイスでの建築家としての勤務経験がまだない方は、経験年数が0-1年の列の5,130chf/月(825,930円/月、1chf=161円で計算)が、最低賃金となります。
ちなみに、ここでいうCFCは、フランス語のCertificat Fédéral de Capacitéといい、その頭文字を取ってCFCと略されます。英語ではFederal Diploma of Vocational Education and Trainingと定義されています。
加えて、ここでいうESはフランス語でDiplôme École Supérieureといい、その頭文字を取ってESと略されます。英語ではAdvanced Diploma of Higher Educationと定義されています。École Supérieurは日本語で高等教育機関と訳されることが多いです。
出典:Dénomination des titres en anglais pour les diplômes de la formation professionnelle
建築家の昇給制度について
スイスでの建築家としての経験年数が増えてくると、昇給制度も押さえておくべき重要なポイントで、どうなってるのか気になりますよね!
日本の一般的な企業では、毎年少しづつ昇給していきますが、スイスの建築家業界ではどういう取り決めになっているのか、先ほどの表をもう一度使って一緒に見ていきましょう。
今回は、大学院を卒業し、修士号をすでに有している方を例に挙げてご説明します。
スイスで建築家として働いたことがない場合は先ほども述べたように、0-1年の列の5,130chf/月を最低賃金として働き始めます。
しかし翌年には、経験年数が1-2年の列となるので、5,540chf/月(891,940円/月、1chf=161円で計算)が最低賃金となり、さらにその翌年には経験数が2-3年となるので、建築家としての最低賃金は5,955chf/月(958,755円/月、1chf=161円で計算)となります。
でもそのあとはどうなるの?
大学もしくは大学院を卒業し、スイスで建築家として働いてる人は、経験年数が3年以上は別のグループ分けの欄に自動的に移り、その中に記載されている最低賃金に従って給料が支払われます。
なので、もう昇給はないのではないかと心配されている方、安心してください、心配無用です。
そして、この場合、修士号を持っている方に限り、建築家としての経験年数が3年以上は右端のREG Aに再配属され、Obtentionの6,570chf/月(1,057,770円/月、1chf=161円で計算)となります。
さらに、REG Aに再配属されてから3年が経つと、Plus de 3の列にある、7,395chf/月(1,190,595円/月、1chf=161円で計算)が最低賃金となります。
つまり、まとめると以下の表のようになります。
スイスでの経験年数 | 建築家の最低月収 | 日本円で換算(1chf=161円で計算) |
0-1年 | 5,130 chf/月 | 825,930 円/月 |
1-2年 | 5,540 chf/月 | 891,940 円/月 |
2-3年 | 5,955 chf/月 | 958,755 円/月 |
3-6年 | 6,570 chf/月 | 1,057,770 円/月 |
6年以上 | 7,395 chf/月 | 1,190,595 円/月 |
スイスだと、建築家でも経験年数によりますが、月収100万円、年収1,200万円が全然あり得ます。ちなみに、この給料がどういった条件の下で支払われるのかを詳しく見ていきましょう。
スイスの建築家に支払われる賃金の「8つの約束」
スイスでは、建築家に対して支払われる賃金に関して8つの約束があります。
その中で、男女間の賃金格差の解消や最低賃金の毎年の調整など、労働者にとっては嬉しい約束が多数含まれています。
このような約束は、建築家がより公正な労働条件を得られることを保証することで、建築家の生産性やモチベーションを向上させることにもつながります。
この記事を読むことで、建築家として働く人々がスイスの労働環境について理解を深め、より良い労働条件を求めることができるようになります。また、建築家以外の読者にとっても、公正な労働環境を促進することの重要性を理解することができるでしょう。
まずは知ることから 第25章 賃金
2023年1月1日から効力を保持し、ヴォー州に属している建築家およびエンジニアの事務所を対象とした労働協約の第25章が賃金についての条文となっております。
9ページから10ページにかけて明記されているこの条文を一緒に読み解くことで、賃金についての一層の理解が深めることができます。
では早速、順に見ていきましょう。
①女性は、同一の労働に対して男性と同一の賃金を支払われていなければならない。
②週42.5時間の労働に対する最低賃金の総額は付属文書に記載されており、毎月同じ金額が支払われること。
③最低賃金は、少なくとも2年前の10月31日時点の指数に基づき、毎年1月1日のスイス消費者物価指数に連動して調整される。
④付録に記載された月給は、年12回、月末に支払われること。
⑤CCTの契約当事者は、毎年末に会合を開き、最低賃金の引き上げ表を計算し、必要であれば実際の賃金の引き上げについても交渉し、協定の修正という形で確定するものとする。
⑥毎年5%を超えるインフレが発生した場合、最低賃金の調整はもはや自動的に行うものではなく、話し合いが必要である。
⑦給与は、従業員が選んだ銀行または郵便局の口座に支払われ、必要十分な給与明細書が作成されるものとする。そして従業員は、遅くとも当月の30日までに給与を自由に受け取ることができなければならない。
⑧時間給は次の計算式で算出される。年間給与÷(週あたりの労働時間数×52.14)
という内容となっています。
ちなみに、ここでいうCCTとはフランス語でConventions Collectives de Travailの頭文字を取ったもので、労働協約のことを指します!英語ではCollective Labour Agreementと言われ、CLAと略されます。
性別、国籍、宗教や信条に関係なく、すべての人に対して公平に適用されます!
基本的なことなのですが、例えば男女で給与に格差があることなど決して許されませんよね。
また、給与の振り込みは月末とありますが、ちなみに僕の働いている会社では、毎月25日に給与が振り込まれます。また、25日が休日の場合、その前後に振り込まれることが多いです。
これらの8つの条文をもとに、スイスでの建築家やエンジニアの最低賃金と振り込み期間等が制定され、雇用者はこれらの法律を遵守しなくてはいけません。
【要注意】給与の適用除外に注意しよう
先ほどの給与の話において、ひとつだけ気を付けなくてはならないことがあります。
それは、語学や技術力の欠如により、どの区分にも属すことができないと判断され、この法令を適用除外されるケースです。
第9章に詳しく書かれているので、一緒に見ていきましょう。
第9章は3つの節から構成されています。
①従業員のカテゴリー分けについて、②在学中のインターンシップについて、③適応除外措置について、という内容になっており、どれも興味深いです。
ではここからは、それぞれ順を追って説明します。
従業員のカテゴリー分けについて
1つ目の節は従業員のカテゴリー分けについてです。
①従業員は5つのカテゴリーに分類される。
a)事務職員
b)製図工、製図技師
c)スイスの専門教育機関を卒業した技術者またはそれに相当するもの、あるいは雇用主がそのように認めた従業員
d)専門職学位を有す者または同等の学位を有する建築家およびエンジニア、あるいは雇用主がそのように認めた従業員
e)修士号を有する建築家およびエンジニア、またはそれに相当するもの、あるいは雇用主がそのように認めた従業員
ここでいう専門職学位は英語でProfessional Degreeと呼ばれ、特に日本においては、専門職短期大学もしくは専門職大学を卒業した者、専門職大学の前期課程を修了した者、または大学院の専門職学位課程(専門職大学院)を修了した者に授与される学位のことです。
従業員は5つのカテゴリーに分類され、それぞれ異なる給与体系となっています。
日本で大学院を卒業し、修士号を取得したのちにスイスにて建築家として働く場合、最終項のeが相当します。
在学中のインターンシップについて
続いて2つ目の節は、在学中のインターンシップについてです。
②この協定では、EPF、HES、その他の認可学校が、卒業証書を取得するために要求するエンジニアリングおよび建築事務所でのインターンシップを行っている場合、学生はインターン生とみなされる。
HESの先行学習インターンシップまたは見習いは、関連する協定に従って扱われる。
ここでいうEPFは、フランス語のÉcole Polytechnique Fédéraleの頭文字を取ったものであり、日本語ではスイス連邦工科大学と訳されています。
加えて、ここでいうHESは、フランス語のHautes Écoles Spécialiséesの頭文字を取ったものであり、日本語では専門大学や応用科学大学などと訳されることが多いです。また、英語ではUniversity of Applied Sciencesと呼ばれ、UASと略されます。
インターンとしてスイスの建築設計事務所やエンジニアの事務所で働く場合、別の制度によって最低賃金や働き方等が制定されていますので、注意が必要です。
適応除外措置について
問題なのが、最後の3つ目の節です。
③海外研修や出身地により、語学や技術講習を必要とする従業員については、上記資格区分の賃金免除を可能とする。
これらの適用除外措置は、適用前に合同委員会に提出され、その妥当性を確認する必要がある。
それ以外の場合は、このCCTに規定された給与水準が尊重されるものとする。
日本からスイスに来て建築家として働く場合、被雇用者の言語能力が著しく低く、仕事をしていく中で必要なコミュニケーションが取りづらいなどの問題が発生すると、注意が必要です。
スイスで言語学校に通いながら建築家として働こうと考えている方も、上記のような適用除外措置の対象者となる可能性がありますので、注意が必要です。
スイスでは、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語を第一言語とし、地域ごとでどの言語を第一言語とするかは変わってきます。
なので、第二言語である英語を用いたビジネスシーンでの会話が最低でもできるよう、日本での努力を怠らないことをオススメします!
スイスの建築家が取得できる年次有給休暇の付与日数
みなさん、働きすぎてはいませんか?
疲労や睡眠不足により生産性が著しく低い状況下での労働は、勤務時間の長期化やそれに伴う睡眠時間の減少など、悪循環でしかありません。
さて、ここからはスイスでの建築家としての働き方に直結する、年間に取得できる有給休暇の日数と、その種類について説明していきます。
スイスの年次有給休暇の付与日数
第24章に詳しく書かれているので、一緒に見ていきましょう。
①従業員は年間5週間(25営業日)の有給休暇を取得する権利があり、そのうち少なくとも2週間は連続した休暇でなければならない。
②雇用契約が年度内に終了した場合、有給休暇はその割合に応じて発生する。
③50歳以降、有給休暇が年間6週間(30営業日)に延長される。
④見習いの従業員および20歳未満の若手従業員の場合、有給休暇は年間6週間(30営業日)で、そのうち少なくとも3週間は連続した休暇でなければならない。
⑤有給休暇の期間は、雇用者と被雇用者の間で合意されたものとする。ただし、雇用主が1年のうち2週間を限度として事務所を閉鎖する場合、被雇用者はその時点で有給休暇を取得する義務がある。
⑥従業員が兵役、疾病または事故により年間2カ月以上欠勤した場合、有給休暇の期間は欠勤した3カ月から1カ月ごとに12分の1ずつ、減らされるものとする。
⑦有給休暇の期間中の公休日、医師の診断による疾病日、事故による就業不能日数は有給休暇としてカウントされない。
有給休暇中に病気や事故に遭った場合、従業員はできるだけ早く雇用主に連絡し、診断書を提出しなければならない。
有給休暇としてカウントしない日は、従業員が働くことができた労働日である場合に限り、後日取り戻す(埋め合わせをする)ことができる。
スイスでの建築家・エンジニアに対する年次有給休暇の付与日数は、契約内容にもよりますが基本的には25日です。
5週間分も年次有給休暇を年度内に完全消化できるか自信ないという方、ご安心ください。お盆や年末年始など、一時的に日本に帰って、例えばそれぞれ2週間滞在したとすると、合計4週間は簡単に消化できますよね!
残りの1週間はフランスやイタリアに旅行する等、使い道はたくさんあります。
スイスでの年次有給休暇の日数は、多いと感じましたか?それとも少ないと感じましたか?
正直、多いと感じた方は、今すぐスイスで就活または転職することをオススメします!
日本の年次有給休暇の付与日数
さて、ここで日本の年次有給休暇の付与日数を少し見て比較してみましょう。
正社員、パートタイム労働者などの区分に関係なく、以下の要件を満たしたすべての労働者に、年次有給休暇は付与されます。
- 半年間継続して雇われている
- 全労働日の8割以上を出勤している
継続勤続年数 | 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 |
付与日数 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
通常の労働者(週5日以上の出勤)の付与日数が上記の表の通りとなります。
日本では継続勤続年数が6年半以上でないと、年次有給休暇日数が20日になりません。
ということで、年次有給休暇の付与日数に関しては、スイスのほうが労働者にとって最適なワークライフバランスを取ることができる環境が整っていると言えます。
スイスの建築家が取得可能な特別有給休暇
スイスの建築家には、取得可能な特別有給休暇があります。
この休暇は、創造的な仕事に従事する人々にとって非常に有用であり、アイデアを生成するために必要なリフレッシュタイムを提供します。さらに、建築家たちが健康的なライフスタイルを維持し、ストレスや過労から身を守ることを可能にするためにも役立ちます。
また、この制度は建築家たちに、より充実したプライベートライフを送ることができるようにすることで、より良い仕事を生み出すためのバランスを取ることを促す役割を果たしています。
この記事を読むことで、建築家として働く人々は自分自身のライフスタイルと仕事のバランスを見直し、より健康的で充実した人生を送るための方法を探ることができます。
第23章に詳しく書かれているので、一緒に見ていきましょう。
①以下の休暇は、当該事由の発生期間中に取得する限り、年次有給休暇から控除されることなく付与される。
-(従業員本人の)結婚式のため/3日
-親族(2親等以内)の結婚式のため/1日
-父親の育児休業/3日
-子どもを養子にする場合/3日
-配偶者または子ども、もしくは他の同居している家族が亡くなった場合/3日以内
-ほかの親族(2親等以内)が亡くなった場合/2日
-軍の検査のため/半日、もしくは従業員が日中に職場に復帰できない場合は1日
-新兵として志願する場合(徴募)/1日
-引越しをする場合/1日
②配偶者の出産や養子縁組の場合の休暇は無条件で、Art. 329g COおよびArt. 16i-m LAPGに規定される権利を補完するものとする。
③欠勤の場合は、できるだけ早く雇用者に連絡すること。
ここでいうフランス語のCongé paternitéは、英語でPaternity leaveといい、日本語では父親の育児休業と訳されることが多いです。
これらの特別休暇は年次有給休暇とは別枠にある、有給休暇です!
慶弔行事や引越しなど、重要な人生の一面に立ち会った際、数日間を年次有給休暇とは別枠にある、特別有給休暇として消化できるのは素晴らしいですよね。
ちなみに、日本においても福利厚生を拡充させる目的で、特別休暇を導入している企業は少なくありません。
しかしながら、日本の特別休暇は年次有給休暇と違い、法律によって定められた休暇ではありません。導入するか否かは企業の判断によるので、注意が必要です。
さて、ここからは先ほどの条文にあったArt. 329g COについて少しだけ触れておきます。
父親の育児休業について
こちらが「スイス民法改正に関する連邦法」となります。
ここでいうDroit des obligationsは、日本語で債権法と訳されます。英語ではThe Code of Obligationsや、The Law of Obligationsと訳されることが多く、さらにこの文脈においてはThe Code of Obligationsの頭文字を取り、COと略されています。
この中では一般規定に始まり、契約関係の種類など、様々な事柄が明記されています。
では、第329g章の項目を一緒に見ていきましょう。
①子どもの出生時に法律上の父親である従業員、またはその後6カ月以内に法律上の父親となる従業員は、2週間の育児休業を取得する権利を有する。
②父親の育児休業は、子どもの出生後6カ月以内に取得しなければならない。
③休暇は、1週間単位または日単位で取得することができる。
スイスでは、14日間の父親の育児休業(有給)が認められています。
子育ては、誰もが積極的に参加できる環境づくりが大切ですよね。
上記の条文では、父親の育児休業についてのみ述べられています。スイスで出産をされる女性の方は、この制度とは別枠で出産・育児休業についての制度がありますので、ご注意ください。
ということで、次の章で「スイスにおいて、産前・産後の際に使用できる有給休暇」をまとめたので、気になる方はぜひお読みください。
スイスにおける女性建築家の産休について
スイスでの出産前後における有給休暇や補償手当ってどうなっているのか気になりますよね?
建築家として働きながら産休をどれぐらい取得できるのかなどを中心に、これから説明していきます。
ここでは、スイスにおける女性建築家またはエンジニアという職種に限っての話となりますので、ご注意ください。
第20章に詳しく書かれているので、一緒に見ていきましょう。
①妊娠期間中および出産後16週間において、女性は解雇から免れることができる。
②出産後、母親はLAPGに準ずる所得補償手当によって、14週間の有給休暇の間は給与の80%に相当する金額を取得する権利を有する。
③職場において、授乳や搾乳のために必要な時間が確保されていること。これらの時間は、1日の労働時間に応じて賃金が支払われ、少なくとも以下の通りである。
a)4時間労働の場合は30分間
b)労働時間が4時間を超える場合は60分
c)労働時間が7時間を超える場合は90分
この時間は、1回もしくはそれ以上に分けて利用することが可能。また、これらの時間は、時間外労働の補填や休日の削減のために使用することはできない。
ここでいう、LAPGとは、フランス語のLes Allocations pour Perte de Gainの頭文字を取ったものであり、日本語では所得補償手当と訳されることが多いです。
14週間は98日間、つまり約3カ月間は出産休暇を金銭的補助を受けながら過ごすことができます!ちなみに、ここにあるような母親の14週間の産前・産後休業(有給)がスイスで導入されたのは2005年からです。
さて、ここからは上記の条文にあったLAPGに準ずる所得補償手当について、少し掘り下げてみましょう。
出産休暇中のLAPGに準ずる所得補償手当について
こちらが、「所得補償手当に関する連邦法」となります。
では、第16章のeとfの項目を一緒に見ていきましょう。
第16e章 支給額および算出方法
①給付金は日当形式で支払われる。
②日当は、手当の受給資格が認められる前に得た有給の仕事による平均収入の80%に相当するものである。第11章第1項の規定は、この所得の決定について準用される。
例えば平均給与が6,000chf/月の場合、その80%に相当するのは4,800chf/月となります。
この金額を毎月の出勤日数で割るので、おおよそ4,800/20=240chf/日となります。
しかしながら、ここで注意が必要なのが、給付される金額に上限があることです。
次の第16f章で詳しく説明していきます。
第16f章 上限額について
①上限額は1日あたり220chf(35,420円/日、1chf=161円で計算)とする。第16a章第2項が準用される。
②手当は、第1項に定める上限額を超えた場合、減額されるものとする。
上記にあるように、220chf/日が上限とされており、いかなる場合もそれ以上を受給することはできません。
給与が非常に高い人とそうでない人の格差を広げないためにも、こういった上限を設けることは非常に有効かもしれませんね。
日本の産前・産後休業について
さて、ここで日本の産休制度について少しだけ見てみましょう。
産休に関する法律は、労働基準法第65条で定められています!
(産前産後)
第六十五条
①使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあっては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。② 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
③ 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
出典:e-Govポータル 労働基準法 第六章の二 妊産婦等 (産前産後)第65条
(定義)
出典:e-Govポータル 労働基準法 第一章 総則 (定義)第10条
第十条
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
日本において、ひと口に「産休」と言っても、産前休業と産後休業でそれぞれ休暇期間が定められています。
産前休業6週間、産後休業8週間、合計14週間の産休があり、産前休業は申請制だったのに対し、産後休業は請求の有無にかかわらず最低6週間は休む義務があります。
期間の長さだけを比較すると、スイスも日本も14週間という同じ長さの産休制度がありますね。
しかしながら、日本において産休期間の給与は原則支給されませんが、会社によっては金銭的なサポートが定められているケースもありますので、注意が必要です。
ただし、日本において公務員の場合、産休中は給与は満額支給されます。さらに、産休中に賞与の支給がある場合にも、基本的には満額支給されます。
まとめ
本記事では、『スイスの建築家の給料』や、仕事と私生活のバランスに直結した『有給休暇』のことなどを中心にご紹介してきました。
正直、今回ご紹介したスイスでの建築家の働き方は、ワークライフバランスを考慮すると非常に優れています。
なので、あとはあなたの人生設計から逆算し、何のために、どのような生活を送りたいのかを定義しながら再検討してみてください。
最後に改めて「スイスの建築家の働き方と給料」をおさらいすると、
- 大学院を卒業し修士号を有している人は、高収入待ったなし
- 年次有給休暇の付与日数は、25日
- シチュエーションに合わせた特別有給休暇がしっかりと整備されている
- 父親の産前・産後休業(有給)は2週間
- 母親の産前・産後休業(有給)は14週間
上記の5つを押さえておくと間違いないといえます。
では、引き続き就活頑張ってください!
後ほど説明しますが、基本的に自分の身は自分で守れるようになることを念頭に置き、雇用者と対等に話し合える環境づくりこそが最も重要なのです!